純金製の耳かき
 金は古代よりその美しさと希少性、化学的安定性(不変性)により、多くの時代と地域で人々に貴金属としての価値を認められてきました。現代では、貴金属としての価値に加え、その材料としての優れた性質により、幅広い分野で欠かせないものとなっています。               
 そのなかでも純金といえば、インゴットやコインなどのかたちで、資産として保有する方も多いと思いますが、独特の深みのある美しさを持つ純金を、金庫やタンスにしまいこむことは、ある意味、もったいないことだと私たちは思いました。
 私たちは、装飾品、贅沢品ではなく「純金の美しさを気軽に楽しめる実用品」を何とか作れないものかと考え、検討を重ねました。純金は密度が大きく、1(g)の体積はわずかしかありません。やわらかい材料のため加工が難しく、低コストでの生産は困難です。かといって銀や銅を混ぜると、加工は楽になりますが、その色合いなどはてきめんに変化してしまいます。結果、10(g)前後の地金使用、また純金の性質に最適なものとして選んだのが耳かきでした。そして、いかに工程を改良し、安価に製品化するかということで試行錯誤を重ね、肌ざわりの良い美しい耳かきの製造に成功しました。
 一見、いわゆる「暇な研究」ですが、このときの材料の数々のナノオーダーの微視的な発見が、後の新型コヒーラと新型SPDの発明につながり、世界を変えることになりました。この研究がなければ、今の世界の一般家庭にまで普及している、高い安全性と耐久性を誇るSPDはなかったでしょう。
〇金とは?

 元素記号Au、原子番号79、原子量196.967(C=12)、密度19300(kg/m3)、融点1337.33(K)、融解熱12.55(kJ/mol)、沸点3129(K)、気化熱334.4(kJ/mol)

 貴金属の中で最も貴金属的な性質を有する金属と評される。あらゆる金属中で最も展延性に優れる。1(g)の金は長さ2000(m)にも延ばすことができる。熱伝導、電気伝導ともに優れた性質を持ち空気に侵されない。熱、湿気、酸素など、ほとんどの化学的腐食に対して非常に強い。ハロゲンと反応し、王水やヨードチンキに溶ける。また水銀に溶解する。

 通常、自然金として、また銅や鉛などの精製過程における副産物として得られる。石英やまれに硫化物の鉱脈の中に存在する。硫化物では黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱などの鉱脈に含まれていることが多い。金鉱山として金を産出する場合は、金の鉱脈に沿って掘っていく。他に金を含む鉱石が風化した砂状のものをより分ける砂金掘りの方法もある。

 

〇純金耳かきの製造工程
  純金はやわらかいので鋳造(鋳型に流し込むこと)によっては耳かきとして必要な強度を得ることができません。そのため次のような工程により製造します。
1.厳重な管理の下、高純度の金地金(@)を溶解、所要の大きさの塊にします。(A)
2.熱間、冷間の条件を繰り返しながら、棒状に打ち伸ばします。(B)
  この段階で実用に耐え得る機械的強度を作ります。
3.「さじ」を形成します。(C)
4.耳かきの形に切削形成します。(D)
5.造幣局に提出します。造幣局ではひとつひとつから材料が削り取られ分析されます。
  合格となったものだけに品位証明記号(ホールマーク)が打刻、返却されます。
  ここで初めて「純金耳かき」となります。
6.仕上げ。完成。(E)
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